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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)35号 判決

横浜市南区永田東二丁目36番3号

原告

株式会社森下機械製作所

代表者代表取締役

森下正

東京都稲城市大丸2271番地

原告

サントリー食品工業株式会社

代表者代表取締役

菅忠雄

大阪市北区堂島浜二丁目1番40号

原告

サントリー株式会社

代表者代表取締役

鳥井信一郎

原告3名訴訟代理人弁護士

大場正成

近藤惠嗣

深井俊至

同弁理士

内田博

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

指定代理人

祖山忠彦

井上元廣

土屋良弘

主文

特許庁が、平成3年審判第12302号事件について、平成5年1月26日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告ら

主文と同旨

2  被告

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告らは、昭和61年1月24日、名称を「瓶キャップ内面殺菌装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、共同して特許出願をした(昭和61年特許願第12036号)が、平成3年3月18日に拒絶査定を受けたので、同年6月17日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第12302号事件として審理したうえ、平成5年1月26日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月8日、原告らに送達された。

2  本願発明の要旨

「コンベアチエインで搬送中の瓶等の容器を傾斜させて内容液によりキヤツプ内面を殺菌するキヤツプ殺菌装置において、コンベアチエインを容器搬送用と容器支承用の2ユニツトに分け、搬送ユニツトの搬送面が水平であるのに対し支承ユニツトの支承面は垂直として外面にカマボコ型のゴムパツトを多数取り付け、両ユニツトが同方向に等速で進行するように併行設置し、搬送ユニツトではコンベアチエインが水平から次第に支承コンベアに向つて傾斜し、再び水平に復するように構成し、支承ユニツトではコンベアチエインが搬送ユニツトのコンベアチエインと当初の夾角を維持しながら次第に垂直から搬送ユニツトの反対方向に傾斜し、再び垂直に復するように構成したことを特徴とする瓶キヤツプ内面殺菌装置。」(特許請求の範囲記載のとおり)

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、特開昭60-99831号公報(以下「引用例1」といい、その発明を「引用例発明1」という。)及び特開昭58-82832号公報(以下「引用例2」といい、その発明を「引用例発明2」という。)を引用し、本願発明は、これらに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであると判断し、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないとした。

第3  原告ら主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨、引用例1、2の記載事項の各認定は認める。

審決は、本願発明のよって立つ技術思想を正確に理解せず、また、引用例1の記載内容を誤認したため、本願発明と引用例発明1とは、「コンベアチエインで搬送中の瓶等の容器を傾斜させて内容液によりキヤツプ内面を殺菌する」との同一の目的を達成するために採用した技術思想に根本的な相違があることを看過して、両発明の対比を基本的に誤り、その結果、本願発明の容易推考性の判断を誤ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  本願発明の特徴

(1)  本願出願前においては、瓶等の容器をコンベアで搬送しながら容器を傾けたり立てたりしようとすれば、何らかの方法で容器を挟み付けることが不可欠であり、そうしなければ容器が脱落してしまうと考えられていた。そのため、従来のこの種装置においては、その具体的手段に差異はあっても、すべて容器を挟持する構成が設けられており、この構成が設けられていないものは存在しなかった。

引用例発明1が容器を挟持する構成のものであることは審決も認定するとおりであり(審決書3頁5~15行)、引用例発明2も、容器を挟持する構成である。また、引用例1、2においてそれぞれ従来技術として記載されているものは、いずれも容器を挟持する構成の設けられたものである。

引用例発明1、2を含む上記従来技術においては、容器を挟み付けるという技術思想に基づく構成から生ずる必然的結果として、予定された大きさの容器しか挟持できず、また、容器に圧力を加えるので、容器に変形、損傷を生ずるおそれがあるとの欠点を免れなかった。

(2)  これに対し、本願発明は、本願明細書(甲第2号証)の発明の詳細な説明の欄に、「本発明は2ユニツトのコンベアチエインすなわち容器を搬送するコンベアのユニツト(以下搬送ユニツトという。)(a)と傾斜する容器を支承するコンベアのユニツト(以下支承ユニツトという。)(b)を組み合わせて同方向に等速で回動させ、双方のコンベアチエイン部分が当初の夾角(直角)を維持しながら傾斜することによつて容器を無拘束のまま傾斜させ、内容液をキヤツプ内面に到達させてこれを殺菌することを基本とする。」(同号証3頁19行~4頁8行)と記載されているとおり、二つのコンベアチエインを組み合わせ、同方向に等速で回動させ、双方のコンベアチエイン部分が当初の夾角(直角)を維持しながら傾斜することによって容器を無拘束のまま傾斜させ、これらのコンベアチエインの面によって容器の重量を単純に支えるだけで、容器を傾けてもこれがコンベアから振り落とされることがないようにしたものであり、脱落を防ぐため容器を挟持して拘束するとの従来技術の上記技術思想によるところは全くない。

そのため、本願発明においては、従来技術の前記欠点は、完全に除去され、従来技術にはみられない効果を奏する。すなわち、容器の径の変更に対しても装置の調整、部品の変更等が不必要であり、多種の径を有する容器を同時に扱うことができるうえ、容器に対する損傷が起こることもなく、軟質材製容器に対してもへこみ等を生じさせることがない。さらに、容器を把持し傾斜させる複雑で設定が困難な構成を要せず、装置の構成がより簡便であり、安価にできるという効果がある。

2  本願発明の支承ユニツトと引用例発明1の無端帯の構成、機能の相違

本願発明の支承ユニツトは、容器が支承ユニツト側に傾いたときこれを支承し搬送する役割を果たし、搬送ユニツトとの間で容器の支承と搬送の役割を相互に交替するものであって、容器を挟持する役割は全く果たしていないのに対し、引用例発明1の無端帯は、搬送コンベアの搬送面に容器の側面をガイドするために設けられたガイドプレートとの間で容器を挟持するために設けられたものであり、挟持ということを離れてはありえないものである。

両者の構成及び機能の相違をより具体的にみれば次のとおりである。

(1)  引用例発明1の無端帯は、ガイドプレートとの間で容器を挟持するために設けられたものである。実施例によりこれを具体的にみれば、弾性体で作られた2本のベルトからなり、ガイドプレートが傾斜して容器を押し倒した際に、引き延ばされて弾性力を生じ、容器をガイドプレートに押し付ける作用を行う。

本願発明の支承ユニツトは、垂直時にはほとんど力を受けないが、傾斜するにしたがって、搬送ユニツトから容器の重量を徐々に受け、水平時には容器の全重量を支承する。

(2)  引用例発明1の無端帯は、2個のプーリ7、8間において、一つの垂直面内に位置するように構成され、コンベアチエイン5が傾斜し容器が無端帯に押し付けられた場合、同一の垂直面内にとどまるように作用するから、この復元力で容器を挟持するものである(甲第4号証2頁左下欄19行~右下欄2行、5頁第8図)。

本願発明の支承ユニツトは、そのコンベアチエインが搬送ユニツトのコンベアチエインと当初の夾角を維持したまま傾斜するから、搬送ユニツトのコンベアチエインが傾斜してもそれとの間隔が狭まることはない。

(3)  引用例発明1においては、本願発明における搬送ユニツトと支承ユニツトの夾角に相当するものはない。すなわち、ガイドプレートの傾斜が最大になったとき、容器の重量はコンベアチエイン3(ガイドプレート部分のコンベアチエインでないコンベアチエイン)で支えられることになるが、コンベアチエイン3そのものは常に水平である。無端帯の位置が変化しないことは上述のとおりである。

(4)  本願発明の支承ユニツトの支承面の外面には多数のかまぼこ型のゴムパットが多数取り付けられている。これは、容器を挟持しないことから生ずる横ずれ等の不都合に対応するためのものである。

引用例発明1においては、その無端帯にかまぼこ型のゴムパットを多数取り付けることは構造上無理であり、また、容器を挟持する構成となっているからその必要もない。

3  審決の誤り

(1)  審決は、「引用例1に記載の搬送コンベアはコンベアチエンからなり、機能的にみて本願発明の搬送ユニツトに相当し、引用例1における無端帯はその作用からみて、本願発明の支承ユニツトに相当するものである」(審決書4頁7~11行)と認定し、これを前提に、本願発明と引用例発明1とが、「コンベアを容器搬送用と容器支承用の2ユニツトに分け、搬送ユニツトの搬送面が水平であるのに対し支承ユニツトの支承面は垂直とし、両ユニツトが同方向に等速で進行するように併行設置し、搬送ユニツトではコンベアが水平から次第に支承コンベアに向かつて傾斜し、再び水平に復するように構成し、支承ユニツトではコンベアが次第に垂直から搬送ユニツトの反対方向に傾斜し、再び垂直に復するように構成した瓶キヤツプ内面殺菌装置。」である点において一致する旨認定した(同4頁14行~5頁4行)が、誤りである。

すなわち、審決が一致点の認定の前提とした認定も、それに基づく一致点の認定も、従来技術と本願発明との容器を挟持するか否かという技術思想の相違及びこれに基づく構成及び機能の相違を看過したために犯した誤りであることは、上述したところに照らし、明らかである。

引用例発明1を出発点にして本願発明に至るためには、前者の基礎となっている、容器を挟持するとの技術思想を捨て去ることが必要であるといわなければならず、したがってまた、引用例発明1、2から本願発明に想到するのが容易であったとするためには、この種装置において容器を挟持するとの発想を捨てることが容易であったか否かの検討がなされ、これが肯定されることが必要である。

ところが、審決は、この点について全く検討しないままその結論を導いたものであり、そこに論理の飛躍があることは明らかであるから、それだけで既に、結論に影響する違法があるといわなければならない。

(2)  被告は、物を挟持あるいは把持しないで姿勢を変えながら搬送する技術は本願出願前周知であったから、瓶キャップ内面殺菌装置においても、容器を挟持するかしないかは、単なる選択の問題にすぎない旨主張する。

しかし、被告が周知技術の存在の根拠とするものは、いずれも、瓶キャップ殺菌装置とは無関係の装置に係るものであって、瓶キャップ殺菌装置において容器を搬送することと結び付くようなものではなく、まして、瓶キャップ殺菌装置において、容器を挟持するかしないかが単なる選択の問題にすぎないものであったことを根拠づけるものでは全くない。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告ら主張の審決取消事由は理由がない。

1.本願発明と引用例発明1との構成上の一致点

(1)  引用例発明1には、審決認定のとおり、「容器を搬送しながら垂直状態から傾斜させ、再び垂直状態に戻すことにより内部液によってキャップ内面を殺菌するキャップ殺菌装置において、容器搬送コンベアの搬送面に容器の側面をガイドするガイドプレートを設け、同搬送コンベアをその搬送面が水平状態から徐々に傾斜させた後、再び徐々に水平に戻すようガイドすると共に、前記ガイドプレートとの間で容器を挟持し、前記搬送コンベアと同速度で走行する無端帯を設けたことを特徴とするキャップ殺菌装置。」が記載されている(審決書3頁5~14行)。

この記載によれば、引用例発明1において、容器を搬送しながら垂直状態から傾斜させ、再び垂直状態に戻すという目的のために必要な構成が、ガイドプレートを設けた容器搬送コンベアと無端帯であることは、明らかである。

その実施例の説明及び図面には、「壜1は底面がコンベアチェン3及び5に乗り、装置内を移動するようになっている。」(甲第4号証2頁左下欄7~9行、同5頁第6図、第7図)として、コンベアチエイン3も上記目的実現に関与するものとされているが、これは実施例についての開示であり、引用例発明1において、コンベアチエイン3は、上記目的を実現するための必須の構成ではない。

(2)  引用例1には、その実施例により、引用例発明1の無端帯は具体的には丸ゴムベルト6であり、これは、壜1の側面をガイドプレート4とともに挟むものであること、上下の丸ゴムベルト6が壜1と接触する側のプーリ7、8の間の長さ変動を吸収するためと、丸ゴムベルト6に壜1を保持する力を与えるため、丸ゴムベルト6を張る方向にテンションプーリ9が押し付けられており、また、壜1が装置内にない場合には、プーリ7、8間の最短距離位置で回転することが開示されている(同号証2頁左下欄6行~右下欄2行、4~5頁第4~第8図)。

これによれば、ガイドプレート4と丸ゴムベルト6との間に壜1が挟まれているときの上下の丸ゴムベルトの進行方向の経路は、全体としてみると、次第に垂直から搬送ユニツトの反対方向に傾斜し、再び垂直に復するものとなっており、この経路は、本願発明における支承ユニツトのコンベアチエインのそれと一致し、傾斜した状態において無端帯が容器を支承していることは明らかである。

一方、本願発明の支承ユニツトは、搬送ユニツトとの組合せで容器を支承し、搬送するものであり、両者が直交したままで傾斜するものであるから、直交する線を中心にしてどの程度傾斜しているかにより、両者が同じ程度に支承と搬送の機能を果たしている場合のほか、搬送ユニツトが主に搬送する機能を有し、支承ユニツトが主に支承の機能を有している場合、あるいは、その機能を交互に交替する場合があるものと認められる。

そうとすれば、いずれにせよ、本願発明の支承ユニツトは、容器が傾斜した状態において容器を支承する点において、引用例発明1の無端帯と機能を同一にするものであるから、両者の機能が全く異なるとする原告らの主張は理由がない。

(3)  このように、引用例発明1の無端帯が、容器を支承する機能を果たすものであり、かつ、容器を搬送するときのその経路も本願発明の支承ユニツトのそれと同じである以上、本願発明の搬送ユニツトのコンベアチエインは引用例発明1の容器搬送コンベアに対応し、本願発明の支承ユニツトのコンベアチエインは引用例発明1の無端帯に対応するものとして、何ら差し支えはない。

したがって、そのように認定した審決に誤りはない。

2 本願発明の容易推考性について

(1)  原告らは、引用例発明1が容器を挟持するとの発想に基づくものであるのに対し、本願発明はこの発想を採用しないものであるとの両発明の間の相違を指摘し、この相違点に重要な意味があるとし、これを前提に、審決はこの点について全く検討していないことにより違法になると主張するが、失当である。

両発明の間に上記相違点が存すること、審決がこの相違点についての検討の結果を具体的に示していないことは認めるが、上記相違点は、当業者が必要に応じて任意に選択することのできる範囲内のものであることは、以下に述べるとおりであるから、審決が本願発明と引用例発明1の間の上記相違点についての検討の結果を具体的に示していないからといって、審決を違法ということはできない。

すなわち、容器をコンベアにより垂直状態で搬送するとき、一般に、容器を挟持して拘束状態にしておく必要はなく、無拘束状態で搬送できることは明らかであり、また、直交する二つのエンドレスベルトを交差する線を中心にして傾斜した配置となし、その二つの直交する支承面で物品を支承し無拘束状態で搬送することは、例えば、実開昭59-137204号公報(乙第1号証)、特開昭50-37168号公報(乙第2号証)にみられるように、本願出願前周知の技術である。

さらに、物品を把持しないで姿勢を変えながら搬送する技術も、特公昭56-44781号公報(乙第3号証)、特開昭53-140778号公報(乙第4号証)、実開昭59-149821号公報(乙第5号証)にみられるように、本願出願前周知である。

そうとすると、瓶等の容器を搬送しながら垂直状態から傾斜させ、再び垂直状態に戻すに当たり、容器を挟持しつつ行うか、無拘束状態で行うかは、当業者が具体的な必要に応じて任意に選択できる事項と認められるから、引用例発明1の容器搬送コンベア上のガイドプレートと上下の丸ゴムベルトよりなる無端帯によって容器を挟持して搬送することに代えて、無拘束状態で搬送しようとして、容器搬送コンベアの支承面と直交する面に沿って、コンベアチエインの支承面を設けることは、当業者にとって格別に創意工夫が必要であったとは認められず、また、その際、容器は二つの支承面により支承され搬送されるので、引用例発明1のガイドプレートは不要のものとなることは、自明のことと認められる。

したがって、審決が相違点(1)で述べた判断に誤りはない。

(2)  引用例2(甲第5号証)には、無端グリッパチエンのトッププレート上に弾性体を設けることが記載されている。この弾性体は、トッププレートの長手方向と同一方向にグリッパチエンの進行方向に対して直角の方向に配列されたかまぼこ型の凸状として形成されるものであるから、容器を挟持する際のクッションの機能を有するほかに、容器の進行方向の動きを規制する機能をも有しており、容器を挟持する前に容器の方向がずれていたとしてもかまぼこ型の弾性体の谷間に落ち込ませ、その位置を修正し規制する機能をも有するものであることは、技術上自明であって、この点において、本願発明の「カマボコ型のゴムパット」と格別に相違するところはない。

したがって、引用例発明1の無端帯をチエインコンベアに変更した際に、容器の進行方向の動きをより確実に規制するため、このチエインコンベアのトッププレートの上面に引用例発明2のかまぼこ型の弾性体を設けることに、格別の困難性はないものといわなければならず、審決の相違点(2)の判断は正当である。

(3)  原告らは、本願発明の効果として、多種の径を有する容器を同時に扱うことができる旨主張するが、失当である。

同じサイズ(ここで「サイズ」とは、高さ、太さ、底の形状、重心位置の高さ等の総合をいう。)の大きさの容器であっても、搬送速度のいかんによっては搬送コンベア上に起立できず、また、支承コンベアによる起立動作の加速度いかんによっては搬送コンベア上に起立できないことは、常識的に自明のことである。

逆に、搬送速度、支承コンベアによる起立動作の加速度が変わらないとしても、容器のサイズのいかんにより、搬送コンベア上に起立しうることもあれば、起立しえないこともあることも、常識的に明らかなことである。

このように、容器が倒れることなく搬送されるか否かは、搬送コンベアによる搬送速度、支承コンベアによる起立動作の加速度、容器のサイズ等種々の要素によって左右されるものであることは自明である。

しかるに、本願発明の要旨には、容器のサイズのいかんにかかわらず、容器を搬送しつつこれを搬送コンベア上に安全、確実に起立させるための、上記各要素に関する技術的事項は規定されていない。

そうとすれば、多種の径を有する容器を同時に扱うことができるということは、本願発明の要旨外の作用効果にすぎない。

3 したがって、上記原告らの主張はいずれも誤っており、本願発明が引用例1、2より容易に推考できたものとした審決の判断に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  本願発明と引用例発明1とは、容器を搬送しながら垂直状態から傾斜させ、再び垂直状態に戻すことにより内部液によってキャップ内面を殺菌するキャップ殺菌装置に係る発明である点において一致するが、引用例発明1が容器を挟持するとの技術思想に基づくものであるのに対し、本願発明はこの技術思想によらず、容器を無拘束のままで搬送し傾斜させるという技術思想に基づくものである点で相違することは、いずれも当事者間に争いがない。

2  本願明細書及び図面(甲第2、第3号証)と引用例1(甲第4号証)の記載によれば、本願発明の支承ユニツトと引用例発明1の無端帯とは、原告らがその主弾2において述べているとおりの構成上及び機能上の相違があるものと認められる。

すなわち、本願発明の支承ユニツトは、コンベアユニツトからなり、搬送ユニツトとの組合せで容器の支承と搬送の機能を相互に交替させるものであるから、支承と搬送の両機能を有するものであり、搬送ユニツトと支承ユニツト双方のコンベアチエイン部分が当初の夾角を維持しながら傾斜することによって、容器を無拘束のまま傾斜させるものであるから、容器を挟持する機能は有していないものである。

これに対し、上記事実によれば、引用例発明1の無端帯は、一つの垂直面内に位置するように構成され、ガイドプレートが傾斜して容器を押し倒した際に、引き延ばされて弾性力を生じ、容器をガイドプレートに押し付け、これを挟持するためのものであり、そのため、丸ゴムベルト等の弾性体でなければならないものと認められる。また、引用例1の「壜1の側面をガイドプレート4と共に挟む丸ゴムベルト6があり、壜1は底面がコンベアチエン3及び5に乗り、装置内を移動するようになっている。」(甲第4号証2頁左下欄6~9行)と図面(第6、第7図)の記載によれば、引用例発明1の無端帯は、容器を支承する機能を有しているとしても、本願発明の支承ユニットのコンベアチエインの機能と同等の搬送の機能を有することを目的として配置されているものとは認められない。

したがって、審決が、「引用例1における無端帯はその作用からみて、本願発明の支承ユニツトに相当するものである」(審決書4頁9~11行)と認定したことは、誤りといわなければならず、これを前提にした両者の一致点の認定も誤りというほかはない。

3  上記認定の構成の差異が、引用例発明1が容器を挟持するとの技術思想に基づくものであるのに対し、本願発明はこの技術思想によらず、容器を無拘束のままで搬送し傾斜させるという技術思想に基づくとの相違に由来することは、明らかである。

そして、本願出願前に、容器を搬送しながら垂直状態から傾斜させ、再び垂直状態に戻すことにより内部液によってキャップ内面を殺菌するキャップ殺菌装置において、本願発明のように容器を挟持しない技術思想に基づくものが存在したことを示す資料は、引用例1、2を含め本件全証拠によっても認めることができない。

したがって、引用例発明1、2から、そのよって立つ技術思想が異なる本願発明が容易に想到できるものということはできない。

被告は、直交する二つのエンドレスベルトを交差する線を中心にして傾斜した配置となし、その二つの直交する支承面で物品を支承し無拘束状態で搬送する技術も、物品を把持しないで姿勢を変えながら搬送する技術も、本願出願前周知の技術であるとして、上記種類のキャップ殺菌装置において、容器を挟持する構成を採用するか、無拘束状態で行う構成を採用するかは、当業者が具体的な必要に応じて任意に選択できる事項であると主張する。

しかし、被告の挙げる実開昭59-137204号公報(乙第1号証)、特開昭50-37168号公報(乙第2号証)に開示されているのは、容器を傾斜した状態で平行移動させる技術にすぎず、容器を挟持することなく、その姿勢を変えながら搬送するという技術課題の解決に示唆を与えるものは見当たらない。

また、特公昭56-44781号公報(乙第3号証)、特開昭53-140778号公報(乙第4号証)、実開昭59-149821号公報(乙第5号証)のものは、いずれも、上記瓶キャップ殺菌装置に関するものではなく、そこに記載された技術をこの種類の瓶キャップ殺菌装置に当然に適用できると考えさせる事情は、上記各乙号証を含め、本件全証拠によっても認めることができない。

被告の上記主張は採用できない。

4  以上のとおり、本願発明と引用例発明1との技術思想の差異に由来する構成の相違を看過し、本願発明が引用例発明1、2から容易に推考することができたものとした審決の判断は誤りであり、審決は取消しを免れない。

よって、原告らの本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

平成3年審判第12302

審決

神奈川県横浜市南区永田山王台37の23

請求人 株式会社 森下機械製作所

東京都稲城市大丸2271番地

請求人 サントリー食品工業 株式会社

大阪府大阪市北区堂島浜2丁目1番40号

請求人 サントリー株式会社

神奈川県横浜市中区長者町5-75-1 スクエア長者町306 宮内特許事務所

代理人弁理士 宮内利行

昭和61年特許願第12036号「瓶キャップ内面殺菌装置」拒絶査定に対する審判事件(昭和63年1月5日出願公開、特開昭63-30)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない.

理由

本願は、昭和61年1月24日の出願であって、その発明の要旨は、補正された明細書及び図面の記載よりみて、特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「コンベアチエインで搬送中の瓶等の容器を傾斜させて内溶液によりキヤツプ内面を殺菌するキヤツプ殺菌装量において、コンベアチエインを容器搬送用と容器支承用の2ユニツトに分け、搬送ユニツトの搬送面が水平であるのに対し支承ユニツトの支承面は垂直として外面にカマボコ型のゴムパツトを多数取り付け、両ユニツトが同方向に等速で進行するように併行設置し、搬送ユニットではコンベアチエインが水平から次第に支承コンベアに向つて傾斜し、再び水平に復するように構成し、支承ユニツトではコンベアチエインが搬送ユニツトのコンベアチエインと当初の夾角を維持しながら次第に垂直から搬送ユニツトの反対方向に傾斜し、再び垂直に復するように構成したことを特徴とする瓶キヤツプ内面殺菌装置。」

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前の昭和60年6月3日に頒布された特開昭60-99831号公報(以下、「引用例1」という。)には、

「容器を搬送しながら垂直状態から傾斜させ、再び垂直状態に戻すことにより内部液によってキャップ内面を殺菌するキャップ殺菌装置において、容器搬送コンベアの搬送面に容器の側面をガイドするガイドプンートを設け、同搬送コンベアをその搬送面が水平状態から徐々に傾斜させた後、再び徐々に水平に戻すようガイドすると共に、前記ガイドプレートとの間で容器を挟持し、前記搬送コンベアと同速度で走行する無端帯を設けたことを特徴とするキャップ殺菌装置。」

の発明が記載されている。

また、同じく引用された、本願の出願前の昭和58年5月18日に頒布された特開昭58-82832号公報(以下、「引用例2」という。)には、円筒体蓋殺菌装置の複数のチエンコンベアからなる無端グノツパチエンとして、円筒体を水平横倒し状態にするため或いはこの状態から直立状態にして排出するために徐々に方向を変えるようにしたものが記載されており、更に、この無端グリツパチエンのトツププレートにカマボコ状の弾性体を取り付けたものが記載されている。

そこで、本願発明と引用例1に記載された発明とを比較すると、引用例1に記載の搬送コンベアはコンベアチエンからなり、機能的にみて本願発明の搬送ユニツトに相当し、引用例1における無端帯はその作用からみて、本願発明の支承ユニツトに相当するものであるから、両者は、

「コンベアで搬送中の瓶等の容器を傾斜させて内溶液によりキヤツプ内面を殺菌するキヤツプ殺菌装置において、コンベアを容器搬送用と容器支承用の2ユニツトに分け、搬送ユニツトの搬送面が水平であるのに対し支承ユニツトの支承面は垂直とし、両ユニツトが同方向に等速で進行するように併行設置し、搬送ユニットではコンベアが水平から次第に支承コンベアに向つて傾斜し、再び水平に復するように構成し、支承ユニツトではコンベアが次第に垂直から搬送ユニツトの反対方向に傾斜し、再び垂直に復するように構成した瓶キヤツプ内面殺菌装置。」

である点において一致し、次の点において相違する。

(1) 支承ユニツトのコンベアが本願発明においてはコンベアチエインであり、搬送ユニツトのコンベアチエインと当初の夾角を維持しながら次第に垂直から搬送ユニツトの反対方向に傾斜し、再び垂直に復するように構成しているのに対し、引用例1に記載されたものにおいては無端帯であり、搬送コンベアに設けられたガノドプレートと無端帯で容器を挟むことによって、無端帯が次第に垂直から搬送ユニツトの反対方向に傾斜し、再び垂直に復するように構成している点。

(2) 支承ユニツトの支承面にカマボコ型のゴムパツトが多数取り付けられているのに対し、引用例1に記載されたものにおいてはこのようなものを備えていない点。

そこでこれらの相違点について次ぎに検討する。

まず相違点(1)についてみると、コンベアとしてチエンコンベアは周知のものであり、更に、チエンコンベアは、その支承面を進行方向に沿って垂直状態から水平状態に或いはその逆に徐々に変え、且つ、その形態に自己保持できるものであることも、例えば引用例2に記載されているように、本出願前周知の事項にすぎないので、引用例1の次第に垂直状態から傾斜し、再び垂直に復するようにした無端帯に代えて、コンベアチエインを搬送コンベアと当初の夾角を維持しながら次第に垂直から搬送ユニットの反対方向に傾斜し、再び垂直に復するようにそれ自体で構成することにより本願発明の構成とすることは、当業者が容易に推考することができたものと認められる。

次に、相違点(2)についてみると、チエンコンベアのトツププレートの表面にカマボコ状の弾性体を取り付けたものが引用例2に記載されており、本出願前公知であるから、引用例1に記載された容器を弾性的に支承する機能を有する無端帯に変えてコンベアチエンとした場合に、その支承面にカマボコ型のゴムパツドを多数取り付けることにより、容器を弾性的に支承するようにすることは、当業者が容易に推考することができたものと認められる。

また、これらの相違点を総合的にみても、本願発明のように構成することに格別の困難性があるものとは認められないし、このような構成とすることにより奏することができるものとして記載されている本願発明の効果も、その構成から予測することが出きる範囲内のものにすぎない。

したがって、本願発明は、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明考案をすることができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

平成5年1月26日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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